7月2日の朝ラジオでは、「お客様からは見えにくいけれど、生地のマルイシが実はこだわっていること」について話しました。
お店を運営していると、効率だけで考えれば、やらない方がいいこともあります。在庫をたくさん持つこと。商品ページを細かく作ること。梱包や同梱物に手間をかけること。どれも、短い目で見ると軽い仕事ではありません。
でも、生地は買って終わりの商品ではありません。
届いたあとに裁断して、縫って、着たり使ったりして、よかったらまた同じものを買いたくなる。そういう素材だからこそ、見えにくいところの手間が、あとからじわっと効いてくると思っています。
買いたい時に買えることも、サービスのひとつ
生地のマルイシは、定番生地の在庫をかなり持っています。
今の経営の考え方では、在庫はできるだけ少なく、必要な分だけ持つ方が効率的だと言われます。もちろん、それは分かります。在庫を持つにはお金も場所も必要ですし、追加で生産をかけるたびに、手元のキャッシュはまた生地に変わっていきます。
それでも、素材屋としては「買いたい時に、いつもの生地がある」ことを大事にしたい。
たとえば、気に入っているTシャツを毎年買い替えるような感覚です。欲しい時にいつでも買える。限定販売に急かされず、必要になった時に戻ってこられる。その気楽さは、買う側にとってけっこう大きいものです。
生地も同じだと思います。
前に作ったものとお揃いにしたい。使いやすかったから、今度は同じ生地の違う色で作りたい。子ども服なら、サイズが変わった時にまた同じシリーズで縫いたい。
そういう買い方ができるように、定番をできるだけ続けていく。これは見た目には出にくいですが、生地屋としてのサービスのひとつだと思っています。
糸は、生地の風合いと丈夫さを決める
もうひとつ、大きいのが糸です。
織物は糸から始まります。どの糸を使うかで、最終的な風合い、表情、丈夫さ、毛玉の出にくさが変わります。
綿ポリダンガリーのような定番生地も、最初から今の形だったわけではありません。昔の卸の仕事の中で、お客様と一緒に「この糸はどうだろう」「この組み合わせはどうだろう」と試しながら、少しずつ今の仕様に近づいてきました。
綿の糸なら、撚りの具合や糸を作る機械によっても表情が変わります。ポリエステルの糸も、丈夫さや毛玉の出にくさに関わります。最近の綿ポリ系のシリーズでは、より毛玉になりにくいポリエステル糸へ入れ替えているものもあります。
お客様からは「糸を変えました」と言われても、すぐには分かりにくいかもしれません。
でも、子どものズボンを作って、サイズアウトまで破れずに使えた。お下がりでもまだ使えた。そういう声をいただくと、糸の選び方や生産の積み重ねが、ちゃんと暮らしの中に届いている気がします。
梱包や同梱物にも、理由があります
生地のマルイシの梱包について、「きれいに届いた」「きれいに切ってくれていた」と言っていただくことがあります。
ここも、効率だけで考えると難しいところです。もっと短時間で、もっと機械的に、作業を詰めていく方法もあります。ただ、今は現場のスタッフが、お客様のことを考えながら梱包してくれています。
同梱物にもコストがかかります。
チラシや案内を作るには、紙代も印刷代もかかります。それでも入れているのは、生地が分かりにくい商品だからです。
食べものなら、りんご、梨、さくらんぼ、と違いが見えやすいものもあります。でも生地は、慣れていない方から見ると、どれも「生地」に見えやすい。無地、ギンガムチェック、ストライプ。写真だけでは、厚みやハリ感、使いやすい用途まではなかなか伝わりません。
だから、買ってくださった方に、次に選ぶ時の基準になるような紙の案内を入れたい。生地のマルイシで買う時だけでなく、ほかのお店で生地を見る時にも、少しでも判断の軸になればいいなと思っています。
商品ページが長くなる理由
商品ページも、同じ考え方です。
生地のマルイシの商品ページは、少し長いです。説明が多いと感じる方もいると思います。上級者の方なら、「早く色を見せてほしい」と思う場面もあるかもしれません。
それでも、今は迷っている方、はじめて買う方、何が分からないのかもまだ分からない方に寄せて作っています。
生地屋として見ると、厚み、ハリ感、透け感、洗濯後の扱いやすさ、向いている作品はそれぞれ違います。でも、お客様が商品ページを全部読み込んでくれるとは限りません。だからこそ、写真、言葉、比較、作品例を使って、できるだけ迷いにくくしたい。
その考え方で作っているもののひとつが、生地マップです。みかんの甘みや酸味を地図のように見せる資料を見た時に、生地にもこういう見方があると選びやすくなるのではと思って作りました。
「サンプル帳がなくてもイメージ通りだった」と言っていただける時は、そこにかけた手間が少し報われた気持ちになります。
分からない人が続けやすいお店でありたい
朝ラジオでも話しましたが、生地のマルイシは「分かる人だけのためのお店」ではなく、「分からない人が続けやすいお店」でありたいと思っています。
洋裁が上手な方、知識が深い方は、自分で調べて、どんどん選べるようになります。一方で、始めたばかりの方は、何を聞けばいいのかも分からないことがあります。
その人たちが、生地選びでつまずきすぎず、作ることを長く楽しめるようにしたい。
縫いナビも、すぐ売上につながるかというと、効率のいい取り組みではありません。でも、洋裁っておもしろいな、生地を買って作ってみようかな、と思う人が少しでも増えたらいい。そこは、これからも大事にしたい入口です。
これからは「なんかいいな」も増やしたい
一方で、最近はスペックだけではない買い方も大事だなと感じています。
厚み、混率、ハリ感、機能性。そういう情報はもちろん必要です。とくに生地は、作るものに合うかどうかが大事なので、スペックを無視するわけにはいきません。
でも、「なんかいいな」と思って買って、実際に使ってみたら「やっぱりいいな」と感じる。そんな買い物もあります。
生地のマルイシはこれまで、どちらかというと説明や比較に力を入れてきました。これからは、スペックで納得して選べることに加えて、見た瞬間の気持ちが動くような見せ方も増やしていきたいと思っています。
生地は、作る前にも、作っている途中にも、使い始めてからも、何度も気持ちが動く素材です。
その時間を少しでも楽しくできるように、見えないところも少しずつ整えていきます。