7月14日の朝ラジオでは、訳あり生地のことと、値付けのことを話しました。
生地屋さんの中には、訳あり品をほとんど出さないお店もあります。ブランドの見え方を大事にするなら、それもよく分かります。きれいな商品だけを並べる、という考え方もひとつの方針です。
一方で、生地のマルイシでは訳あり生地も販売しています。むしろ、比較的多く販売しているお店だと思います。
それは織物を作って、産地の中で商売を続けていくうえで、その方が全体として健全だと考えているからです。
織物には、どうしても訳ありが出ます
マルイシで扱っている生地の多くは、綿や綿ポリなどの織物です。織物は規格化された商品ではありますが、完全にブレのない工業製品とは少し違います。
天然繊維が入っていると、原料そのものに小さな差があります。織っている途中で綿ぼこりが入ることもありますし、わずかな織りキズが出ることもあります。
その中で、1反の中に何点までならA反、一定以上あればC反、という基準で分けていきます。もちろん全部がA反で上がってくるのが一番です。でも現実には、訳あり部分がゼロになることはありません。
機屋さんに全部背負わせない
訳あり部分が出た時に、その負担を誰が持つのか。
会社によっては、織ってくれる機屋さんに補償してもらうこともあると思います。明らかな大きい不良や、全体に問題がある場合は別です。ただ、1反の中に少し訳あり部分が出た、というようなケースでは、マルイシは基本的に機屋さんへ請求しないようにしています。
理由はシンプルで、仕事をしてくれている人が安心して織れる環境を残したいからです。
こちらが強い立場で「これはそちらの責任です」と言い続ければ、相手は苦しくなります。苦しい状態が続くと、いい仕事をしようという気持ちも続きません。何より、次も一緒に仕事をしたいと思えなくなってしまう。
だから、訳あり分はこちらで引き取り、通常品より買いやすい価格で販売します。そうすると、お客様は少し安く生地を試せます。機屋さんも必要以上に責められない。マルイシとしても、まったくの損で終わらせずに済みます。
もちろん、訳あり生地が出ること自体はうれしいことではありません。それでも、誰か一人に全部を背負わせるよりは、この形の方が長く続けやすいと考えています。
訳あり生地は、状態や在庫がその時々で変わります。気になる方は、こちらからご覧ください。
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三方よしで考える
こういう判断の土台にあるのが、近江商人の「三方よし」です。
売り手によし。買い手によし。世間によし。
売り手である私たちが、ちゃんと商売として続けられること。買ってくださるお客様が、買ってよかったと思えること。そして、周りから見ても後ろめたい商売ではないこと。
この3つがそろって、ようやく会社は長く続けられるのだと思います。
ただ、実際にこの3つを満たそうとすると、だいたい楽ではありません。お客様には喜んでもらいたい。機屋さんや仕入れ先さんにも無理を押しつけたくない。自分たちも倒れてはいけない。
でも、迷った時にはここに戻ります。この判断で、どこかに無理が寄りすぎていないか。誰かを泣かせる形になっていないか。完璧にはできなくても、できるだけその方向へ寄せていきたいと思っています。
値付けは、続けるための判断です
訳あり生地の話は、そのまま値付けの話につながります。
訳あり生地をいくらで売るのか。定番生地をいくらで売るのか。原価が上がった時に、値上げするのか、それとも我慢するのか。
経営をしていて、値付けは本当に難しい仕事だと感じます。生地を作ること自体は、工程を組めば進められます。原価も積み上げれば見えてきます。でも、その商品にどんな値段をつけて、お客様にどう届けるのか。そこには、そのお店の考え方が出ます。
昔のマルイシは、今よりかなり安く売っていた時期がありました。たくさんのお客様に知ってもらいたい気持ちもありましたし、とにかく買いやすくしたかった。でも、そのやり方は続きませんでした。気持ちの面でも、商売としても、無理が出ます。
安いだけでは、店は続かない
激安のお店は、お客様にとってはうれしい存在です。安く買える瞬間は、もちろんありがたい。
けれど、その価格でお店が続けられないなら、いつか閉店してしまいます。気に入っていたお店がなくなると、お客様も困ります。次に同じものを買いたくても、もう買えません。
好きなラーメン屋さんには、ずっと続いてほしいと思います。自分が年を取っても行きたいし、家族とも行きたい。そう思うお店には、ちゃんとお金を使います。原材料が上がっているなら、無理をして閉めてしまうくらいなら、値上げして続けてほしい。
今いるお客様に、来年も、10年後も、できれば30年後も同じように生地を届けたい。実際に、マルイシには30年以上同じ生地を注文してくださっているお客様もいます。その方が同じ生地を買い続けられるのは、こちらが続いているからです。
国産で、ごく普通に使える定番生地を作り続けることは、以前より難しくなっています。特殊で少量のものは国内に残りやすい一方で、スタンダードな生地ほど海外へ移っていきました。だからこそ、今ある作れる環境を簡単には手放したくありません。
値上げは怖い。でも、必要な時がある
値上げをすると、お客様が離れるかもしれません。実際、毎回不安になります。これで大丈夫なのか、やっていいのか、と考えます。
それでも、仕入れ先さんや機屋さんから「原価が上がったので価格を上げたい」と言われた時に、こちらがまったく値上げできない状態だと受け止められません。結果として、下の工程に苦しさを押し返すことになります。
それは三方よしではありません。
値上げをすれば、離れるお客様もいるかもしれない。そうなったら、新しいお客様に知ってもらう努力が必要です。広告を学ぶことも、発信を続けることも、そのための仕事です。楽ではありませんが、続けるためには必要な仕事だと思っています。
マルイシが激安のお店になることは、たぶんこれからもありません。安い方がうれしい、という気持ちはよく分かります。それでも、できるだけ長く続けるための値段をつけることの方が、お客様に対して誠実な場面もあると考えています。
訳あり生地を売ることも、値付けも、同じ話です
訳あり生地を売る理由と、値付けの考え方は、別々の話のようでつながっています。
機屋さんに無理を押しつけないこと。お客様に少しでも買いやすい選択肢を用意すること。マルイシ自身も続けられる形にすること。
どれか一つだけを見れば、もっと簡単な判断もあります。でも、長く続けようと思うと、全体で考える必要があります。
訳あり生地は、完璧な反物ではありません。キズや汚れの場所を避けて使う必要がありますし、用途によって向き不向きもあります。それでも、状態を確認しながら上手に使っていただければ、いつもの生地を少し手に取りやすく試せる入口にもなります。
生地を選ぶ時に、こういう背景も少しだけ思い出してもらえたらうれしいです。
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