7月5日の朝ラジオでは、生地作りと生産管理について話しました。
お店に並んでいる生地を見ると、最初から「生地」として存在しているように感じるかもしれません。でも実際には、糸を選び、経糸を準備し、織って、染めて、仕上げて、保管して、ようやくお客様のところへ届きます。
今回は、その流れをざっくり追いながら、生地のマルイシが普段どんなことを見ているのかを書いてみます。工程を知ると、いつもの生地が少し違って見えると思います。
糸から、生地作りは始まります
生地作りのかなり手前には、まず糸があります。コットンなら、畑で綿花が育ち、その綿が収穫され、紡績という工程を経て糸になります。
マルイシではポリエステルを使った生地も多く扱っています。ポリエステルの場合は、細い繊維を作り、それをどの長さにカットするかなどを設計しながら糸にしていきます。天然繊維と違って、化学繊維は最初の規格をかなり細かく決められるところがあります。
どんな糸を使うかで、出来上がる生地の厚み、ハリ、風合い、扱いやすさは変わります。生地の企画は、色や柄を考える前から始まっているんです。
織物は、経糸と緯糸でできている
織物は、経糸と緯糸でできています。ふだんの言い方だと「たて糸」と「よこ糸」ですが、織物の世界では経糸、緯糸と書きます。
経糸は、鉄の大きなロールのようなビームに何千本もの糸を並べて巻きます。一度準備すると、途中で簡単には変えられません。生地の土台として、ずっと張られている糸です。
一方で、緯糸は織りながら横方向に打ち込んでいく糸です。途中で色を変えたり、糸を変えたりできる場合もあります。チェック柄や先染めの生地を考えると、この経糸と緯糸の組み合わせがどれだけ大事か分かりやすいかもしれません。
経糸をどう上下させるかによって、平織、綾織、サテンなどの組織が変わります。デニムは基本的に綾織です。同じように見える糸でも、通し方や動かし方で生地の表情は変わります。
織っただけでは、まだ商品にはならない
経糸を準備したら、機屋さんの織機にビームを乗せて織っていきます。播州織の産地では、織機を24時間動かす工場もあります。
一度セットしたら勝手にどんどん織れる、と思われるかもしれません。でも実際には、糸が切れたり、機械が止まったり、いろいろな問題が起きます。職人さんやご家族が交代で見守りながら、止まった原因を見て、直して、また動かしていく。かなり大変な仕事です。
織り上がったばかりの生地は、生機と呼ばれる状態です。まだ糊がついていて、マルイシの後染め生地なら色もついていません。この段階では、まだお客様にお届けできる商品ではありません。
生機は、その後、染色加工工場へ送られます。糊を落として洗い、染色し、やわらかさやハリ感を調整します。最後に幅出しをして、熱や圧力をかけながら幅や形を整え、巻いて、袋に入れて、倉庫へ入ります。
生地作りは、かなり細かな分業です
こうして並べると、生地作りはかなり分業です。糸を作るところ、糊をつけるところ、織るところ、染めるところ、仕上げるところ。ひとつひとつの工程に設備があり、技術があり、人がいます。
どこか一つが止まると、途端に生地は作れなくなります。織れる工場があっても、糊付けができなければ進みません。染色加工ができても、生機が上がってこなければ染めるものがありません。
生地のマルイシだけが元気なら作り続けられる、というものでもないんです。各工程の工場さんが、それぞれ仕事として続けられることが必要です。ここは、ものづくりの難しさでもあり、産地の大事なところでもあります。
生産管理は、工程をつなぐ仕事
生産管理という仕事は、ざっくり言うと、この複数の工程がスムーズに流れるようにする仕事です。
まず、どんな生地を作るかを決めます。この生地ならどの糸がよいか、どの太さが合うか。糸屋さんにも相談しながら決めていきます。
次に、どれくらい作るかを決めます。3000m、5000m、10000m。生地によってロットも違います。数量が決まったら、必要な糸の量を計算します。
ここで単純に「1000mの生地を作るから1000m分の糸」というわけにはいきません。織物の糸はまっすぐ伸びているのではなく、上下に波打ちながら入っています。平織なのか、綾織なのか、サテンなのか。糸の太さによっても必要量は変わります。
そのため、糸量を出すための係数を使います。過去の研究や蓄積があって、番手や組織に応じた計算の考え方があります。生地作りには、現場の感覚だけでなく、かなり地道な基礎研究も入っています。
色やハリ感を、できるだけ同じに近づける
生産管理では、問題が起きた時の調整も大事です。うまく織れない、糸に問題があるかもしれない、機屋さん側で調整が必要かもしれない。分業だからこそ、どこで何が起きているのかを見て、関係する工場さんと話します。
染め上がった後は、品質の確認があります。定番生地はリピートで作ることが多いので、前回の生地と比べて、色が赤すぎないか、明るさが違わないか、ハリ感が変わっていないかを見ます。
ただ、毎回まったく同じにするのは本当に難しいです。たとえばハリ感を出す加工には、樹脂のようなものを使うことがあります。さらさらした液体ではなく、どろっとしたものなので、毎回ピタッと同じ量、同じ効き方にするのは簡単ではありません。
だから工場さんと相談しながら、できるだけ同じ状態に近づけていきます。「いつもの生地」として安心して使ってもらうために、最後の微調整を重ねています。
在庫と保管も、生地作りの続き
仕上がった生地は、倉庫で保管します。光が当たりすぎないように、傷がつかないように、状態を見ながら保管して、注文が入ったら必要な長さにカットしてお届けします。
お客様の手元に届くのは最後の一場面ですが、その前にはたくさんの工程があります。生地を選ぶ時に、少しだけでもその流れを思い出してもらえたらうれしいです。
マルイシの定番生地は、定番生地一覧から見ていただけます。生地の種類や選び方をざっくり知りたい方は、生地選びマップも参考になると思います。
これからは、見て伝わる説明も増やしたい
この日の朝ラジオでは、最後に少しだけ「ビジュアルで伝えること」の話もしました。
生地の説明は、どうしても言葉が多くなります。シワに強い、縫いやすい、ハリがある、やわらかい。文章で伝えることは大事ですが、言葉だけでは届きにくいこともあります。
たとえば、シワの残り方や、針の通りやすさ、服にした時の落ち感。写真や動画で見た瞬間に分かることもあります。絵本のように、言葉を少なくしても伝わる表現ができたら、生地のよさはもっと遠くまで届くかもしれません。
生地作りの裏側は複雑です。でも、使う人にとって知りたいのは、結局「自分の作品に合うかどうか」だと思います。
工程の話も、ビジュアルの話も、そこにつながっています。安心して選べるように。届いた生地で気持ちよく作れるように。これからも、言葉と写真の両方で伝え方を整えていきます。
今回と同じ朝ラジオの読みものとして、職人技と見えない手間についての記事も公開しています。ものづくりの裏側に興味がある方は、あわせて読んでみてください。